目を覚ましたら誰もいなかった。
部屋のベッドにひとりで眠っていたんだ。ここはどこだろう。星のない空を見つめながら思い出す。そうだ、車に積まれて運ばれた。遊びだと思った。だって、そう云われたから。見回してもママがいない。リネンに埋もれてぼくはひとり。
何もかも思い出した時に涙が出た。
他の子より体が大きくたって、そのせいで強そうに見られたって、
こん、こん。
ぼくはとても泣き虫なんだ。
ママがいないと分かっただけで泣いてしまうよ。
こん、こん。
ふと音に気づいた。そういえばさっきから音がしていた。枕から顔を上げてもう一度窓の外を見る。ひっ、と声を上げてしまった。月を背中にしょっているから、顔もからだも真っ黒に見える。三角形の耳だってあったけど、そいつの正体はまだ分からないもの。ぼくが慌ててシーツの中に潜り込むと、そいつは勝手に入ってきた。
「来ちゃった」
そいつはぼくのいるベッドの上に乗っかると云った。
何もかも勝手だ。
「明日会わせてくれるって云ったんだけど、がまんできなくて、眠れなくて、屋根をわたって来ちゃった。ねえ、こんばんは。あたし、レン。きみの名まえは?」
幼い女の子の声だったので少し安心した。
ぼくは勇気を出して顔を上げた。
そいつはぼくの顔を見て嬉しそうに笑った。
ぼくは、どきっ、とした。
これ、どきっ、って、何だろう。
その子のおさげが首筋に触れたらくすぐったくて、うっかり笑ってしまった。
慌てて表情を元に戻す。
泣いているところを見られてしまったのに、笑っているところまで見せるわけにはいかないんだ。
「ぼくは、ナオ」、短く云った。
「そうか。ナオか。ねえ、あたしたち隣同士なんだよ。これから毎日遊べるんだよ。あたし、おおきな家に住むのが夢だったんだ。今日その夢がかなって、あたらしい友だちもできて、いっぺんにうれしい」
「ぼくは、友だち?」
「そうだよ」
「どうして」
「今あたしが決めた」
さも当然のように話す。
ぼくの涙の跡を舐めながら。
「ねえ、ナオ。どうして泣いていたの。こわいの?哀しいの?さみしいの?」
ママを思い出して泣いていた、なんて云えば笑われてしまう。それに、すごくかっこわるい。だって、レンだって今日ここに来たばかりなのに、ちっとも哀しそうじゃない。
レンは、ママを思い出して泣いたりしないんだろうな。
「あたしも同じだよ」
ぼくは、顔を上げた。
「こわくて哀しくてさみしいんだ。だから会いに来たんだよ」
その言葉を聞いて、強がるのはやめようと思った。
「ぼくは、前の家の方が良かった。帰りたい。かえりたいよ・・・」
でも素直になればなったでそれを後悔する。
口にすれば感情は溢れ出す。
ママはどうしているだろう。
ママはぼくを大事じゃなかったのだろうか。
ママがパレントだったのは知っている。
いつかこんな日がくるのは聞かされて分かっていた。
それでも、平気な顔をできないんだ。
「・・・こんなところで生きていく自信ないよ。ころしてよ」
我慢していた涙が一気に零れた。
驚いたレンがぼくのことを、ぎゅっ、と抱き締める。
「ねえ、ナオ。きみってさ、云ってることが大袈裟だよ。ごめん、笑っちゃいそうだ」
云われなくても分かってる。
そんなの。
ぼくは大袈裟だよ。
でも、止められないんだよ。
だって、ぼくは、泣き虫なんだ。
ぼくは、人一倍、こわがりなんだ。
「ねえ、泣かないでよ。ナオ。毎日たのしいから、そんな泣かないでよ。ころしてなんて、云わないで。ね、ね」
ふたり分の涙が、ぽたぽたと落ち続けた。
その時気づく。
レンだって不安だったんだ。
さっきもそう云ったじゃないか。
「泣き虫だね、あたしたち」
細くやわらかな腕。
夢のように。
いつまでもぼくを温める。
いつかのある日
きみは
そのおさげを鋏で切り落とすかも知れない
女の子の自分をきらいになって
いつかのある日
きみは
きみが「云わないで」と云った
「ころして」ってせりふ云ってるかも知れない
真夜中お腹に食べ物つめて
「これでここには何も入らないな」って
冗談云って笑っては
暗い部屋で吐き戻しているかも知れない
だけど
そんなこと
まだまだ分からないよ
ぼくときみは
世界一しあわせなふたりになっているかも知れない
すきな場所で昼寝して
すきな洋服でおしゃれして
すきな音楽をハミング
すきなものを食べながら
すてきな恋をしてるんだ
だから
だから
今日も明日もあさっても
ころしてなんて
云わないで
遊びに行こう
きっと明日も天気が良いから
目覚めたら真っ先に云いたい。
Good morning, my friend !