二度目は約束の時間通り現れるつもりはない。

白いワンピース姿のラビはターミナル北口附近が見渡せる木の陰に隠れていた。
偶然出会って名刺を渡した日の翌朝にはもうヒズミから電話が掛かってきた。シウンには何も告げずターミナル北口を出たところにあるレストランで昼食を取りながら話をした。シウンのことだから何もかもお見通しだったんだろうが。
ヒズミは驚くほどたくさんの情報をラビにもたらした。特に彼がDGだったことはシウンにも伝えていない。他にも、33Hは本当はどこにもないということ等を話していたが、それも怪しい。そもそも相手を警察官と分かって電話を掛けてくるなんて、あのDGはよっぽどどうかしていたのだと思う。二度目の約束はラビから取り付けた。
別れ際に思い切ってこう云ったのだ。
精一杯しおらしく。
「また、会ってもらえないかな。・・・もし良かったら、だけど」。
聞いた時のヒズミの顔。
今にも泣きそうだった、笑顔。
女の子に誘われることに慣れていないのだろうか。
しかし、どちらかと云えばちやほやされるタイプの顔だった。がたいが大きい割に少し気弱そうなところもあったが、第一印象だからまだ分からない。あんな嬉しそうな顔をされるともっと喜ばせたくなってしまうではないか。どうしてくれるのだろう。
「あいつ・・・本当に来るんだろうな」
ふとラビは振り返ってショーウインドウに映る自分の姿を確認した。ワンピースなんて久しぶりだ。仕事以外で外出することが久しぶりなのだ。隣にシウンがいない状態も久しぶり。せいせいする。どこかおかしくないだろうか、髪ははねていないだろうか、入念にチェック。チェックしながら、そんな自分が嫌になる。
「これは・・・デートなんかじゃないだろ」
その時、北口からヒズミが出て来た。立ち止まって辺りを見回し、ラビの姿がないことを確認すると日陰に入ってもう一度辺りを見回す。壁に寄り掛かって煙草でも吸い出すんじゃないだろうか、と思っていたのだが、ヒズミはそわそわと落ち着かない様子で北口から出て来る人の流れを不安げな表情で見つめている。
その姿を見たラビは自分のしていることの無意味さに呆れてしまい、今着いたふうを装ってヒズミの方へ駆けて行った。
「ターミナルから出て来るんだと思った」、ラビの姿を見たヒズミがたちまち笑顔になる。
これは負けてしまいそうだ、とラビは思った。
負ける?
何に?
「うん、送ってもらったんだ」
「あの面白い叔父さん?」
「面白い、じゃなくて、鬱陶しい、だ。それより、お腹空いたな。どこ行こうか。ヒズミ、何か食べたいものある?」
早速歩き出そうとしたラビの腕をヒズミの手が握る。何、と振り返ると「かわいい」と云われた。一瞬、何を云われたのか分からずラビは問い返した。
「え?」
「かわいい、って云った。ワンピースを着ているラビは、すごくかわいい。それをちゃんと伝えようと思って」
言葉が浸透しきると、ラビは首まで赤くなってしまった。


作成したリストをシウンがプリントアウトしているところへラビが帰宅した。
「あ、ラビ。おかえりい」
「ただいまあ・・・。じゃ、ない!叔父貴、人の家に勝手に入んなって云ってるだろ!」
「まあまあ。親戚同士じゃないか」
いつにも増して機嫌の悪いラビを見、何かあったのかな、とシウンは思った。
「それより。二回目のデート、楽しかった?どこまですすんだ?」
「デートじゃないって云ってるだろ。これも仕事だ、色魔」、投げ付けられたバッグを顔面で受け止めることになってもシウンはへこたれない。
「なるほどね。不覚にもどきどきしちゃったんだ?そのイライラは自己嫌悪なんだ?」
何か云ったら云い返してやろうと思っていたラビだが思うように言葉が出てこなかった。
図星だったのだ。
33Hのことを聞き出してやるつもりだったのに、ヒズミのペースに巻き込まれてしまった。本当に、デートをしているような気分になってしまった。
「・・・ヒズミは、やさしくて良いやつだ」
いくら自分から鎌を掛けたとは云え、正直な発言を受けた時の衝撃は計り知れない。シウンは涙を堪えながらリストを差し出した。
「そ、それは良かったね。俺も嬉しいよ。ははは。これは、ひとりぽっちで留守番をしていた叔父さんからのプレゼントだよ」
「留守番?叔父貴のしていることこそが不法侵入だろ。いっそ叔父貴を逮捕しちまえば手柄になるんだろうけどなあ」
冗談を云いながらラビは受け取ったリストに目を落とす。「これ、何?」。
名前、性別、年齢、住所、年収まで並んである。
「リンチ事件の次の被害者を予想して一覧にまとめてみたんだ」
コンピュータの電源を消すと立ち上がって背伸びをする。
「五名に絞った。もっとも確率高いのが、上から三番目」
そう云われた人物の名前をラビは読み上げる。
「ノーザン・レオ。・・・これって、亡くなったミスター・ノーザンの弟じゃないか」
そこはラビが見張れば良い、とシウンはキッチンへ飲み物を探しに行く。「早ければ早いほど良い。明日行こう」。
我が物顔で冷蔵庫を開ける叔父にラビは文句を云いたくなったが、もう一度リストに目を落とすとその気はなくなった。
「・・・叔父貴、ありがと」
疲れた様子の背中に礼を云った。