異国の神殿を思わせる白亜の建物の入り口にラビとシウンは立っていた。
高額出資者として有名なノーザン・レオの住居だ。隣には彼の兄ミスター・ノーザンがもともと住んでいて、今は空室の建物が建っている。ほとんど隣接した状態で建てられた建物の二階には小さなベランダがあり、手伝いが花に水を与えている。
「神殿にメイドちゃん。まったく、良い暮らししてるぜ」、舌打ちしたシウンをラビは小突く。
「姪の家に居候してる身分から見ればな」
「それ云っちゃう?」
やがて扉の向こうに現れたノーザン・レオは、シウンとラビをリビングへと招いた。
「これまでの被害者の特徴から見て、次は私がリンチ事件の被害者になりうる、と。まったく、物騒な話です。忌々しい」
ノーザン・レオは胸のポケットから煙草を取りだしながら舌打ちをする。
一本すすめられたがシウンは丁寧に断った。
「他にも複数の予想が立てられたのですが、あなたの身辺はあたしと、助手のシウンで警備させて頂きます」
事件の顛末を説明するためにラビは鞄からファイルを取り出した。
広いリビングのソファに座らせてもらい、ラビが早速説明を始めようとすると、ノーザン・レオはシウンを見つめて云った。
「君、前にどこかで会ったことがないかな」
「いいえ、今日初めてお会いしました」
微笑むシウンの横顔をラビは盗み見た。
人間が嘘を吐く時の微笑み方だ。
「・・・そうか。いや、すまなかった。では、話を進めてくれないかな、お嬢さん」

現在所有権を持つノーザン・レオの許可を取り、ふたりはミスター・ノーザンの元住まいを見せてもらうことにした。
調度品はほとんどそのまま置かれている。
「お嬢さん、だって。ああくそ、いらいらする」
ノーザン・レオと別れてからずっと同じことをぶつぶつ云っているラビを横目に、シウンはあの日のことを思い出す。
(つかまえてください、ちゃんとつかまえてください)。
きつい目。
思い出したのは、涙さえ滲まない大きな目だ。
血の付いた手と。
あの、小さな手。
小さかった手。
「叔父貴、どうした?」
ラビに覗き込まれ、シウンは我に返った。
「え、何だって?」
「何だって、じゃないよ。珍しくぼーっとしてさ。そういえば、レオ氏とは会ったことがあるの?」
分からないな、と返事をするシウンがまた嘘を吐く時の微笑み方をしていることにラビは気づいたが追及せずにおいた。
「ま、汚点だらけの叔父貴の過去なんか知りたくないけどね」
「酷いな。美点だって数え切れないほどあるんだ」
「どうだか」
ミスター・ノーザン邸の一階には浴室、食卓、書斎、寝室の他にもう一つ部屋があった。
「応接室かな。にしては、椅子が多い気もするけど。第一、広すぎる」
ビロードの絨毯の上には椅子が点在していた。長椅子もあれば一人掛けの椅子もある。右手の棚の上に音盤を見つけたラビがプレーヤーに入れて再生するとチェロの音色が響いた。豪華な気分だ、とラビは椅子の上で足を組んだが、その時、棚の引き出しに気づいて手を伸ばす。
「ラビ、勝手に開けちゃまずい。家の中を見て良いとは云われたけど調べる許可まではもらってない」
「だって。ここへ来てまだ何も収穫がないもん」
ラビは椅子ごと体を後ろに傾けながら一番上の引き出しを開けた。「何もない」。二段目も同じように空だったが、最後の引き出しを開けようとした時にはそれまでとは違う手応えがあった。
「ん、写真。ぎっしり詰まってる。テープもある」
「へえ、写真ね」、シウンは窓を開けて外を眺めている。
周りは高い塀で囲まれ、光も十分に射さなかった。
陰気な部屋だった。
「ラビ、それどんな写真?」
「うん、この部屋だ」
ノーザン・レオにすすめられた時から我慢していた煙草をシウンは銜える。
火を点けた時、椅子ごとラビが後ろに倒れる派手な音がした。
「はあ・・・云わんこっちゃない」
起こしに行くと、倒れた際に辺りに散らばった写真の一枚がシウンの目に入った。
「叔父貴、これ」
自分で体を起こしたラビが写真を床に広げる。
「これ、この部屋で撮影された写真。ノーザン・レオ。ミスター・ノーザンも。・・・この写真が、証拠だ」
パーティーの最中を撮影した数々の写真を正視することができないラビはシウンを見上げると声を絞り出した。
「・・・ヒズミだ、あいつが犯人だ」

(つかまえてください、 ちゃんとつかまえてください)。