生きる
つもりはないんだ
産まれたばかりの
星の名を
覚えたそばから
忘れてゆくなら
本物嫌いの友人と
天体を模した施設へ
これからゆくのです
硝子を抜けて
射す西日が
靴箱に栄養のように行き届いている
完璧は崩れやしない
こっそり欠けても
誰が秘密を暴いても
星をひとつ落としても
世界はたおやかに続き続ける
+
「新世界」
なるだけ遠ざかろうと試み
背中越しに繋がっただけ
ぼくらの町は水没し
おさななじみの悪党は臓腑を求めることにのみ余念がない
船のスクリューが蹴り上げる飛沫の中にだけ
七色の虹が認められる
ここじゃ
誰も地図を暗記しない
星を見上げない
一度も数を数えない
何か知りたいならば
目の前の人を黙って見つめるだけ
いつかあった世界は
赤ん坊と老いぼれを抱えて
さよならも云わず云わせもしないで
朝と夜の隙間へ転がり落ちてったのさ
宵ばかり長い一日の連続した始まりは闇
+
「言葉よりも」
同じように吐き出すのなら
火を
照らして目に見せる一本の蝋燭を消すだけでいい
それだけでいい
+
名誉も褒章もその実は
螺子にされる前段階の枷でしかない
理解されえた途端
無理解からのみ生じえた尊い憂鬱は失われる
見てきた
知らざる太古から 生命はみな平気に自由で
永遠のごとくずっと 見ていた
あの時代の孤独の一つ一つは
まるで恩寵と呼ぶにふさわしい
手離さざるを得なかったのか
手離したのか この点できみを責めたならば
ぼくは果たしてお門違いになるのだろうか
狂えたのは誰か 狂わなかったのは誰か
天が回るら地は止まるのか
地が動くから天は回るのか
ままならない部分ばかりの双子
八肢を投げ出し北極星をさがしてる
さよならは云わない
まだぼくら出会ってすらいなかったのだ
出会っていないものにさよならは云えない
云えないというのより似合わないだろう
傍にいるうちから離れてゆく
眺めれば眺めるほど遠い銀河は
祈りに生きたものの肌に発疹となって現れる
そしてありったけの暗闇は目印を匿いながら
厳かに締めくくられる死より雄弁に神を否定した
+
本来は孤独ではなかった
たとえば
誰かが云うみたいには
喧噪と思わないほど音は身近で
困惑するほど嫌いだったわけじゃない
何年もの
降り積もった溶けない雪を
楽園へ届けに行こう
思い立って出かけた
空の青が
そこではいきなり変わって深いなんて
一人も思いやしなかったし今後も誰も思やしないさ
寡黙な男が途切れさせた話の続きは
誰が咎めても僕が聞きたかったことだ
見放していたサボテンに花が咲いた明日
背骨を棘でいっぱいにして女が一人
石も落ちていない道を辿り町を出て行く
あれはもうかつての
祭壇のパンを分け合った少女ではない
大人ってものは
老成した子供が思いたがるほど難解じゃない
男が耳にささやいて
打ちあがった白鯨のような寝床の上
ぼくは頷きもしないが少女の影の形さえ忘れる
+
捻じ曲げられた光
風は微笑んでハンモックが揺れた
人はこの世でかくも身重で
自傷して兵役を逃れた少年が
死人の顔の上でオレンジを割る
+
朝目が覚めて
真っ先に
というよりは気づくとすでに
手はインキを求めて木肌を這っている
顔の半分を覆う
白い布の下で目が乳飲み子さながら
光源のゆくえを知りたがるよりはるかに切に
短く切られた爪の下に嗅覚は潜み
探し当てたインキに準備は整うが
死体をこしらえた蝶は忽然と消え
空に盛り上がった白の連なり
どこまでも青く光る
どんな夢も今となって悪夢だった
ぼくの孤独は子山羊の寂しさに似ている
+
僕らはもっとの先に届かなくて
軽くなりたくて歌さえも忘れた
左手の薬指と中指の間を
縫い付けている糸が空の高みに吸い込まれて
その先はいくつになってもまだ見えない
数字を忘れた
星に命を重ねることはできない
ニュースキャスターが死者数を読み上げる
それを聞いているまぎれもない生者は
今日の折り込みチラシで明日の行先を決める
平等と不平等は半永久に天秤を揺らす
無償のまま二人を許してくれるはずの人が今日に一人
明日にまた一人と消えていなくなってしまう
忘れるものを増やそうね
裏切る前に指は切るものだよ
足りなければ不自由のたびに思い出せるだろう
その目を近づきすぎた太陽の光線から遮ろうと
翳した指による不具合がきっときみに教えるから
+
「顛末」
雪だよ
何度騙されたろう
この真夏に降るのは
名前も知らない花ばかり
あの子はすこし弱いからね
親戚の誰かが云って
人差し指をこめかみに立てた
きみが諳んじる数字の無限や
土に書いた無数の記号や
目の前に見るように滑らかな描写や
他人の誕生日をいくら覚えていたって
意味なんかない
意味なんかないのだそうだ
では世界は模倣された
この国は
少女への純情も
今に分かった仲違いの真相も
プロペラの回転数
スープの豆にひそむ秘密もすべて
あの子にとっくに模写され
僕は真夏の雪を確かに目撃し
こめかみの人差し指はそのまま本物の火を噴いた
+
「先の約束」
何ともそぐわない
何にも沿われたくはない
可哀想ね可哀想にねと
憐憫まじりの期待さえなければ
僕は今も昔も変わらず元気なんです
弧は悠久を裁断し
欠片を地上に零してくれる
道理でどこかで見たと思ったんだ
かじられてなお伸びる君の爪の形
切断面から根を生やす観葉植物だ
西に向かって涙をこぼし
東に向かって咽喉を開く
吸い込まれた和解の空気が
全身を猛毒のように回ったなら
明日も昨日も百年先も
言葉を紡いで御覧にいれます