『夢の葬列』
風の渡る水面にすべて託した
あのひとをつかまえて
月光でコーティングしたら
もう二度と解き放たないで
闇は星を抱え込む
もっともっと暗くなるため
あのひととぼくの夜と
あのことあいつの夜のため
星屑の葬列に加わって
銀色の楽器を奏でている
一瞥した後ろ姿
もう二度と追ったりはしない
また会えたら
また会えても
知らんふりをしてね
今度こそぼくたちを初恋にしてね
+
『橙の底アパートメント』
飛行機雲
追って見つけたビルの谷間
密猟された愛の果て
ネオンを食べる熱帯魚にさよなら
橙の底に沈むもの
百群から始まるグラデーションの
いちばん底辺で輝くもの
裏切ってやった奇跡の末裔たち
そこは星屑がこぼれ
砂時計の終わるところ
そこは朝陽に溶かされ
殲滅と再生の共生するところ
そしてなにより僕たちの
すり切れた靴底でたどり着きうる
やがて最後に帰る
蜜色した毛布の広がる極楽
+
『101回目の殺人未遂』
読みかけの本の上にこぼれた
パン屑を払う手つきを
見せつけられたみたい
殺してやろうかと思う
誰の手にも負えまいから
一撃でないほうがいい
フォークとか身近で
スプーンとか不似合いなものがいい
君は苦しんで
苦しんで苦しんで苦しんでやっと死ぬ
だんだんとうつろな目で
ろれつのまわらない舌で
訴えてくるならぼくは
君と出会った頃から話し出すよ
そうしたらわかるだろう
君がどれだけわがままで
ぼくがどれだけ未遂を抱えたままの男か
+
『おへんじ』
これくらいの
とコップを指して君は言う
愛でいいなら
だからぼくは
目玉焼きを返すのを忘れた
泣いて頷いてまた泣いた
君は残さないんだな
この世界に
食べかけも、分身も
世界はそれで少し
損をするだろう
いいのぼくは悪魔になるの
+
『クラスメイト』
ルフランを我慢しなければよかった
指さされて笑われても
愛する世界をほんと愛してるって
そのまま言えたら良かった
カーテンの裏側にはカーテンの裏側の世界が続いてただけだった
てっぺんになりたいわけではない
そう言うとやせ我慢だとか負け犬だとか
所詮なれないんだとか色々飛び交うね
間違いも正しいもどうだっていいんだ
ただ飛び交って喧しいから頬杖に任せる
罵声がぜんぶちょうちょならいいのに
いろんな知らない新しい蝶々
そしたら僕はすべて捕まえてしまって白銀のかごで死なせかけて
すんでのところで再生させてそれからさ
どうにかやりくりしてさなぎになって孵化するところ
見守りながらあなたにだって負けないで微笑んでみせるよ
気づいていたって知っていた?
やめないで見つめて睨んでばっかり
あなたいつも好きだね
自分を愛し返さないものが本当に好きだね
+
『きみをきらい』
カーテンレールにあの日のコイン
とっくにもう終わっていたんだ
ずっとひとりで待っていたものは
オルゴールのとげとげをさわりたかった
音を奏でるいじらしいとげとげを
鍵を無理にこじ開けて壊してしまった
僕に壊されるものはいつもかわいい
僕を語らないでも生きるこの植物がきらい
僕の見えないところで死んだあの猫がきらい
僕に名前をつけさせてくれないまま
お世話しなくても死なない君のことがずっときらい
+
『はらわたに茜さす』
ずっと前に誰かと
引っ張り出して遊んだ
カセットのテープのにおいがする
誰のはらわたとも違って
あれはあれだけの香り
秘密の罠は楽しかったな
染まりそうになって
嵌りそうになって
そのことに気づいてないことを知って
出せるものも出せなくなって
願うのは誰かの孤独ばかり
それはたまにきみのだったりする
飲み残しをまだ流せないでいる
舌からはすぐに消えてしまうからね
シンクに映ってぼやける顔
きれいだねと皮肉られるのにも飽きた
褒められて微笑まれてベッドに埋もれる
そんな正常に落ちぶれていかないで
オレンジじゃなくて橙色なんだって
そんなこと主張してどうなるのか
だいじだったんだよ
だから僕はいつまで経っても
きみの泣きかたを今も忘れられないんだ
+
『ふたりめ』
また新しく生まれた
何も知らない何も知らない
ぴちぴちの死人候補生
アンドロイドクターが匙を投げた世界に
今日もまた太陽はふられた
月は満足そうに満ちている
その光の中で僕は新しい命に
名前を偽るのも面倒になってきている
聴覚が確認できたら僕はまた繰り返すだろう
きみではないきみに似た何かに愚痴っぽく
遠い昔からずっと寄せて返す波が
いつまでも僕だけを置き去りにするんだって
手足もまだ不揃いの
あかない瞳を思いながら声を殺して
きみの耳の形に合った貝殻は落ちてないかと
今日も廃棄物だらけの砂浜を裸足で僕はどこまでも歩く
+
『百群と群青』
網にひっかかるシャボン玉みたいだった
逃げ切れなかった僕らを逃さなかったもの
それは石の壁でもサーチライトでもなく
ガーゼより柔らかな真っ白のカーテン
だけどあなたはそれを百群と呼んだっけ
どっちの視界も不安定でそのように見えていた
不安定なままで誰もいない不在に神様を見た
怯えながら寄せ合った体に痣は伝染し
本当を見たこともないけれど星のように散った
がんじがらめのあなたはかわいいな
どうかこれからも信じることをやめないでいて
信じるに足るものなど他に無いってこと
悪辣と放蕩の果てで僕の痙攣にだけ憩ったらいいんだ