ぼくたちの町の真ん中にある
緑色のガスタンクは卵みたい
何年も何も生まれては来てないけれど
もしかしたらもう空っぽかもしれないけれど
それにはちいさな梯子が付いていて
許されればてっぺんに行けるようだ
ぼくたちはそれを禁じられているけれど
いつか登って見下ろして飛んだりとかしてみたい
そばの倉庫で首つりがあったみたい
いちばんいい夜を選んだよ
誰もが眉をひそめながら笑うなかで
本当に素敵に感心してる人だっている
いちばんいい夜がみんなに訪れるといい
そう思える一日がまたあるといい
誰かが誰かを殺したときだけじゃなく
たまに不定期にぼくを襲うといい
えたいの知れない愛みたいなものだとか
あふれればいい
排水口が詰まったみたいに
綺麗じゃないところからふいに
何かの間違いみたいに
流れに逆らって方向転換する
信じたものを疑うわけだから
棘がささったりするけれど
抜かなくても死なないでしょう
顕微鏡の奥に広がる世界
誰から何をされても嫌な顔ひとつしない
それはぼくの特技であり生存条件だった
きみの細胞とレンズ越しに目が合う
バラバラのときだけはみんな可愛い
+
街に光がななめにさす
やわらかい鋭角がいのちをさす
木々のざわめきが次を呼んでいる
きらいな時間はもうすぐ終わる
白いノートに手のひらをかぶせ
書き切ったものを破り取る
誰の目にも触れないように
言葉の胎児を丸呑みにする
たくさんの凶器が地上にはあって
それで救われる人が確かにいる
はるばる遠くから見れば
血痕の輝きだってそれなりに星座だろう
+
ぼくは間違うだろう
きみを閉じ込めたいというだろう
砂糖とか琥珀とかきれいなものに
永遠のために誘導するだろう
生きづらさを訴えるきみにはうってつけだ
だけど忘れてはいけない
ぼくは間違うことがある
きみを諭そうとする
この姿勢がすでに間違いだったりする
ぼくが澄んだ目でものを語るとき
そのときは本当に狂ったと思っていい
だからいま言っておく
ぼくがどうなってもきみは忘れるな
死なないこと以外に大切なことはない
信じるすべて裏切って逃げてでも
生きないほうを選んではいけない
理由をさがしてはいけない
理由などはないから
正気のぼくの願いだと割り切ってほしい
押し付けがましくて不気味だろうが
きみは命を守らないといけない
ぼくを幻滅させながら老いなければ
欲した理由はそのあとに降りしきる
+
ほれぼれする
あたたかいのは
ぼくに降る宝石
宇宙のこぼす涙
光ばかりのこの国で
夜はしずしず
海へ溶けてく
見届けなきゃ
欠片にふられて
惑星たちに指さされても
結露のように身を寄せ合って
からだいっぱいの歴史を
一族の生と死を
刻まれなかった声を
風にのせて拡散しなきゃ
他愛もないすべてのため
世界が笑わないのは
ぼくが笑わないからだね
いま知ったよ
ぼくはぼくを見ていたんだ
敵ではない
他者ではない
世界ではない
思いどおりにならないこと
そんなものはどこにもなかった
+
ねがいごとが消えていくのを待っていた
同じ一日はこないといいきかせて待っていた
あかねびのかかる欄干の上に
新しい血をさらにしとどに垂らし渡っていた
思春期みたいにかたい胸でやわな思考で
見慣れた顔に似た赤の他人とすれ違いながら
馴染んだ何かを早く壊したくて仕方がなかった
それはきっとありがとうって言うよ
神さまなんて呼ばなければよかった
愛なんか一度でも知らなければよかった
やさしくしてくれるものに囲まれて人は自由を失うよね
あなたは簡単だから誰が監視してもしてなくても
ぼくが吐いたものを手のひらに受けられる
この世に石鹸があるからだよね
あなたの暮らしに石鹸を買い忘れない人がいるからだよね
無垢だから息ができなくなるんだ
だったら誰にも疑われず病むくらい
与えてくれて悪くはないだろ
傷つくな、なんて無責任なことを真夜中に語るな
+
水槽はジャムでいっぱい
魚になっても息はできない
これが願った罰なのか
非力で祈るだけならかわいかったか
建物の外壁はやつれて
黄昏に向かって泣いている
ふと目を逸らした先に青信号
帽子をかぶった男の横顔
バスを降りて駆け戻った
懐かしい部屋できみは死んでいる
ぼくの幸せを確信しながら
ジャムに潰されて平和だと笑って
+
残酷とかわいいは同義だよ
ぼくの中できみは天使だよ
いや天使とか実際知らないからきみだよ
だってぼくの中で最高の比喩だよ
もうきみをきみ以外でたとえたりしないから
(まちがえちやってごめんね)
アイコンでありシンボルだよ
ピアスの隣に盗聴器つけて
かかりつけ医みたいにきいてるよ
BGMみたいに当たり前に流れるよ
きみの鼓動と呼吸だけ頭の中に流してたいよ
電車もラジオも邦ロックもいらないや
きみの太ももの火傷の理由知ってるよ
その傷がまた膿んだら指を入れていくんだ
そうしたらぼくの手首の傷から指先が出るんだ
そう言わざるを得ないような世界世界世界がこないかな
そう信じて心地よい昨日昨日昨日を積み重ねていく明日明日明日
きみのこと嫌いな奴ばっかりの世界世界世界に住みたいな
きみをよんだりさわったりかわいがることが罰ゲームの世界世界世界にならないかな明日明日明日っから
+
綺麗で短いものが好き
ナイフも時間も
すり抜けた不条理
屋上から降るスパンコール
デコレーションできる領域の有限性
生まれた場所を捨ててきたあなたが
いまもその土地の訛りで喋っている
ガラスについた雨粒が描く模様を
眺めていると有限性なんか幻だと思う
綺麗で短いものなんかこの世にありませんと言われる
粒は景色を包み込んで転がり落ちる
虹の出ない雨上がりに白い傷痕
青い空の下で薔薇という文字の練習ばかり
あなただって何をしたっていい
絵を描けない歌も歌えないぼくの隣でなら
+
風が運んだ花びらが落ち
栄光を厚く塗り潰し
暴言と雨に打たれて
きみの体が明るく輝いた
抱くたびに知るんだ
土のにおいがきみからはする
愛の果ての血よりも深く
柔らかく眠っていた証としてか
人肌は慣れないでまだ熱いだろう
良い顔をされないときばかりだけど
ぼくの手がきみの心臓を
操っている夜も確かにあった
三日月
新月
三日月
満月
一千年後もまだ胸が痛むなら
数多の夜のあけた朝
ぼくに何をしてもきっと許そう
土や花らとひきかえに愛や血とやらに打たれよ
+
愛なんか信じるから裏切られるんだ
それはいつのまにか染まっていくもの
空は空のまま夕焼けにも帳にもなる
夜明け前の甘い不服をも抱き込んで
見えない目がほんとうの光をつくる
これまで誰にも象られることの
なかったものを日々確かに象ることができる
きみの幼稚な不安がぼくを永遠に生かす
場所を知らない公園
名前のついていない海岸
行けないところはない
繋がってさえいれば眠っていても
夢は抱かない
希望は持たない
それはいつか染まっていくもの
いつのまにかに染みて流れ始めるもの