ラ イ ア ー & ラ イ ア ー
ぼくの連れは人気者だ。
見目麗しく誰に対しても礼儀正しいから。ソツなくすべてにおいて有能だから。ぼくと並ぶと映えるんだそうだ。と言うのはこれまで人から言われたこと。ぼくと並ぶと、ってなんだ。ぼくと並ぶと、って。失敬な。
だけどぼくとロイドは周囲が羨むほど実際そんなに仲が良いわけではなくて多少演じているところはある。ロイドは嬉々として。ぼくは渋々と。
そりゃあ連れを褒められて嫌な気はしない。どちらかと言えば鼻高々だ。従者は所有物だから。従者への賞賛はそのまま所有者への賛辞だ。
とは言えぼくとロイドは、彼らがほんの少し感づいている、つもりになっている以上に、不穏な日もある。
たとえばそれは夜。寝苦しくて目を覚ますと首に手をかけられていたりする。
「おまえ何してるの」。
「いえ、首元がお寒いかと」。
そこで寝室に閂を誂える。
たとえばそれは青天のピクニック。ロイド手製のサンドイッチを辞書のようにひろげてみると。
「さすがに悪質だぞ」。
「嫌ですねえ、画鋲くらいで」。
そこでサンドイッチはぼくの目の前で作らせるルールに。
たとえばそれは風邪をひいたとき。
「なにをにやにやしているんだ」。
「弱ったご主人は簡単に襲われてくれそうで儚くて危うくてかわいいなあと」。
あれ以来ぼくは風邪をひかない。健康も健康、ちょう健康体。ヘルシーご主人。
楽しそうでいいねと言われる。
冗談が通じないねと笑われる。
ぼくか?ぼくだけが悪い?ばかを言うな。
ロイドはぼくの祖母に拾われたオールドタイプだから、ぼくの顔が懐かしいだけだ。祖母の若かりし頃に似ているのだと言う。少なくともそういうことになっている。おんぼろロイド。おんぼロイド。ふん。
「ほんとうか?」。
「本当です。そうでなければ誰がご主人なんかに構うものですか」。
エピソードの真偽を問えば、これである。ふん。おまえの過去など知ったことか。
ロイドは、週に三度は褒められるプラチナブロンドを後ろでひとつに束ねて、ゆらゆら揺らしながら、ふわふわのオムライスを焼いている。
ぼくだって、ぼくだって、おまえがオムライスをこんなにふわふわに作れるんでなければ、廃棄だからな廃棄。わかってんのか、人間もどき。
わかってます、ええ、わかってますとも。ほらほらケチャップで絵を描きますよ。レッツ・ドローイングタイムです。
イニシャルも付けろ。
お花も。
もちろん小鳥もだ。
湖。
くじらや、マンボウも入れろ。
湖に鯨やマンボウを泳がせるのは、如何なものかと。
夢のないやつだな。
夢、ですか。
太陽と木星も描け。
誠に申し上げづらいのですが。
どうした。
もう面積がありません。
ほう。それは誰の責任だ?
私です、ご主人。私が至りませんでして。
そうだ。それだけか?
次回はもっと面積に余裕があるオムライスを焼き上げますから。
誓うか?
誓いますとも。
まあ、いい。もぐもぐ。
時に、ご主人。お願いがあるのですが。
なんだ。
あーん、をひとつ。
相変わらずふてぶてしい従者だ。
なにとぞ。
仕方がない。では、ほら、あーんだ。
あーん。
うまいか?
ええ。
そんなに満面で笑うな、気持ち悪い。
はい、笑いません。もう二度と笑いません。今日一日に限っては。
ふん。なんでおまえなんかと一緒にいなくちゃなんないんだ。くそっ。
不思議ですねえ。こんなに嫌いなのに?
そう。こんなに嫌いなのに。くそっ。くそっ。
口が御悪くあらせられる。
うるせい。あーん、は?もう要らねえのかよ。
それではお言葉に甘えて。あーん。
ほら、あーん。
美味しゅうございますね、ご主人。
おまえが作ったんだ、美味しいに決まってる。ばかなのか?ぼくはばかは嫌いなんだ。おまえの作ったオムライスは美味しい。それは常識だ。だけどおまえはこのオムライスをぼくだけにしか作らないから誰にも証明できないんじゃないか。ばかたれ。ぼくはばかをたれるやつは嫌いだ、本当に嫌い。
左様で。
特に、オムライスの得意なバカはな。
私も、一番好きな料理がオムライスと宣うようなご主人になどつきたくないのでありますが、なにぶんお顔立ちが好ましいことこの上ないものでして。
ふん、だったらずっとぼくだけを見てろ。
異議御座いません。大変美味しゅうございます。
ぼくはロイドが嫌いと公言している。
ロイドもぼくが嫌いと公言している。
だから人びとはぼくたちをこう呼ぶ。
大嘘つき、と。